年金が破綻する、みたいな話題が世の中的によく聞かれるようになってきました。ただ、「じゃあ、実際問題、年金だけじゃなくて、トータルで見た日本国の財政状況ってどうなんだよ?」という素朴な疑問に答えてくれる初学者向けの有益な資料がこれです。日本の国家予算は一般会計と特別会計(こっちのほうが予算規模は大きい)の二本立てになっていて、両方みないと全体像が見えてきません。ただ、特別会計のほうを解説している資料は非常に少なかったので、待望の一冊と言えます。
結論からいうと、国家財政は今日明日破産する危機ではないけれど、特殊法人をはじめとする様々な既得権を整理していかない限り、崩壊していくのは明らかであるということです。
税金などというものは安ければ安いほどいいと思います。ただ、公共サービスがゼロになっても大変です。警察も軍隊も裁判所も消えてしまったら、「自分達で武装して治安を守れ」という面倒な昔の世界に逆戻りしてしまいます。それはそれで世紀末な世界でとても不便です。
中世のように村ごとに武装して盗賊や武装勢力の襲撃に備えるといったことになったら、100年の兵役が国民全員に課されるようなものですので、たぶん誰もやりたくないと思います。(映画「七人の侍」みたいな世界に戻ったら面倒ですよね)
なので、単に税金の金額の多い少ないだけでなく、国民から見た国家のコスパ(費用対効果)がいいか悪いかという視点が重要なのは言うまでもありません。
年金崩壊や国家破産といった話題も、実際問題として日本国が財政危機なのは事実です。
wikipedia的なことを少し書き加えると、日本の国家予算というのは一般会計と特別会計に分かれています。合計して重複部分をざっくりのぞくと220兆円程度の総予算規模になります。支出のうち、ざっくり80兆円程度は、国債の支払いにあてられています。
支出の4割を超える金額が単純な借金返済という「生産的価値を何も産まないこと」に使われているわけですから、確かに危機的状況です。「今のままではよくない」という所までは誰が見ても同じ意見になる所でしょう。一般家庭で言えば、一家全体の総支出が月220万円で、うち大昔に買った豪邸(いまや資産価値0円)のローン返済が月82万円みたいな話ですから。
で、国家予算ですが、国債の支払い以外のことに使っているお金がざっくり140兆円くらいあります。
この140兆円は大いに見直し余地があるようです。見た目的には、社会保障費(年金・介護・医療)がけっこうな割合をしめてます。が、社会保障が大半だから削れないと考えてしまったら、際限なく消費税などの税が増えていくだけの話です。
特別会計の支出の内容をひとつひとつ見ていくと、一般的な必要経費に加えて、お役所頼みの業界の既得権を維持するため、あるいは役所や政治家の権益維持のための事業、赤字続きの国家事業(昔の国鉄の赤字体質が有名ですが、ああいうのがたくさんあるイメージで)、にかなりの金が使われている可能性が見えてくるわけです。
どこかで、こうした既得権の構造を壊さない限り、国家崩壊に向かって
滅びの道を進んでいくのは誰が見ても明らかでしょう。
年金を減らし、医療費を減らし、公共工事を減らし、地方交付金も減らし、
一部の天下り役人の利権の温床になっている半官半民団体を減らし・・・
聖域なき構造改革というより革命的な支出削減をやっていかない限り、日本という社会がゆるやかな死を迎えることは明かなわけです。最終結論としては全くもって財務省の言う通りで「年金に限らず国家財政崩壊への道」を歩んでいます。
ただ、例えば「では支出の割合のでかい年金から削りましょうか」と数字的な正論を言うと、シルバー世代のほうが選挙に行く人数が多い今の社会状況では、政治家は選挙に落ちてしまう可能性が高くなります。つまり、金を持っているシルバー世代を向いたことを言わないと政治のリーダーシップをとりにくい状況なのです
いわゆる世代間格差の問題です。民主主義社会の「大衆による多数派投票」というシステムの根本的な欠陥として、「これから生まれてくる人達の利益が代弁されにくい」という話があります。次世代に負担を先送りする政策が通りやすいという話です。(このシステムの欠陥を修正するとしたら「教育」しかありません)
そんなこんなで、総論賛成各論反対の人ばかりで、改革のスピードは非常に遅いのですが、その中でも政治の世界も進歩はしているのだなということを感じることができる本でした。