社会はなぜ左と右に分かれるのか 対立を超えるための道徳心理学【書評 | 感想】

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社会心理学の本ですが、個人的に普通の読み物として隠れたベストセラーになる可能性があると思っている本です。特に、「影響力の武器」や「神話の法則」や「あなたの会社が90日で儲かる」などを読んだことがある人、文書を書くことを日常的にしている人は役に立つ可能性の高い本だと思います。

6つの感情基盤

ハイトは、6つのフレームで人間の道徳的な感情の基盤を分析しています。この理論が非常に素晴らしいです。

「ケア / 危害」
「公正 / 欺瞞」
「自由 / 抑圧」

「忠誠 / 背信」
「権威 / 転覆」
「神聖 / 堕落」

このモデルで、アメリカでの 「左派(リベラル)」「右派(保守)」「リバタニアン」と分析していますが、この分析だけでも読む価値はあると思います。

リベラル(左翼)はなぜ負けるのか?

本の帯のコピーにもなっていた「リベラル(左派)はなぜ勝てないのか?」というテーマの、ハイトの分析は以下の通りです。

左派(リベラル)は、最初の3つ(ケア、公正、自由)の道徳基盤を重視するが、忠誠、権威、神聖には重きを置かない。右派(保守)は、六つの道徳基盤すべてにバランスよく依拠している。

だから、現代のような多様な価値観が共存している社会においては「左派(リベラル)は、基本的に右派(保守)に負ける」という話になります。右派のほうが「より広い層」にアプローチできるからです。

明日の食べ物に困っている人が人口の半分をしめていれば、「ケア/危害」と「公正/欺瞞」に依拠した「食糧を平等に分配して、みんなの命を救え!」的な主張だけしているほうが説得力があるかもしれません。ただ、そうではない現代の先進国の場合、「弱者救済」だけを言い続けても響く範囲は狭くなる一方であるという話です。

なぜ保守は勝利するのか

なぜ保守(右翼)が勝利し、左翼(リベラル)は負けるのか、この話題を例え話で考えてみましょう。

東京の中心に大きな電量販店があったとします。

駅の左側の○○○カメラは「マッサージチェア(ケア)・クーラー(公正)・パソコン(自由)」に特化した品揃えになっています。

しかし、駅の右側の○○○電気は「マッサージチェア(ケア)・クーラー(公正)・パソコン(自由)・ロボット掃除機(忠誠)・最新式のTV(権威)・ドラム式洗濯機(神聖)」と、より広い品揃えがそろっています。

なので右側の電気屋さんにより多くの人が入っていきます。というような例え話で考えてみると分かりやすいでしょう。

右派(保守)のほうが左派(リベラル)よりも価値観の品揃えが広く、より色んな層の人達に響くので多数派をしめやすいという話になります。

(あくまで例え話なので、詳細な分析は、本書を読んでください)

まとめ

ハイトは、東洋の陰陽の発想を引いて「左翼(リベラル)と右翼(保守)」を陰陽に例え、「光と闇の永遠の戦い」ではなく「陰陽の和合を」という希望を示して本書をとじています。

「あなたがよその集団を理解したいのなら、彼らが神聖視しているものを追うとよい。まずは六つの道徳基盤を考慮し、議論の中でどの基盤が大きなウェイトを占めているかを考えて見よう」

とありますが、他人の価値観のキモがどこにあるのかを探る場合、この六つの道徳基盤というモデルは極めて有用な武器になる可能性を持っていると思います。

※本書の六つの道徳基盤 「ケア / 危害」「公正 / 欺瞞」「自由 / 抑圧」「忠誠 / 背信」「権威 / 転覆」「神聖 / 堕落」

アメリカの社会心理学者が東洋的な「陰陽和合」を説くような時代になってきたところで、日本人は古代から親しんできた陰陽調和という美徳をあらためて体現し、そのソフトパワーを世界に広めることが求められるようになっていくことでしょう。

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サイトの運営方針は「自分とは何か」「日本文明とは何か」という二つの問いへのインスピレーションを刺激する話をすること。人生で大切にしたい事は「遊び・美しさ・使命・勝利・自由」。 なお、日本的精神文化のコアの一つは「最小の力で最大の成果」だと思う。例えば「枯山水(禅寺の石庭)の抽象的アート表現」などは、良い例。

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