鎌倉時代の歌人として有名な西行の和歌に「何事のおわしますかは知らねども、かたじけなさに涙こぼるる」というものがあります。伊勢神宮にお参りした際の「俺はいま、猛烈に感動している!!」的な言葉にならない感動をうたった和歌です。
言葉にならないすごいものを言葉にした名言
神社やお寺にお参りした際の感動というのは、「言葉にならないもの」が多く含まれます。神様仏様の世界ですので言語や論理で表現できない領域のものが含まれるからです。
ただ、その言葉になりえない感動を、きちんと言葉にしているのが、西行の和歌のすごいところだと思います。
「誰がいるかとかそういうことじゃなくてさ、ただ涙が勝手にでてくるんだよ」と言われたら、確かに「言葉では表現できないけど、すごいものがそこにあるんだ」という感動が伝わってきます。
「ほんとうに大切なことは言葉では表現できない」という話がありますが、「何かわかんないけどすごいもの」の存在を感じさせてくれる表現の力は、さすがに一流の歌人だと思います。ただ単に「絵にも書けない美しさ」とか「言葉にできない魅力」とか言うだけでは、なかなか実際の感動は伝わりませんので。
古くからの日本人の神仏との向き合い方の例を今に伝えてくれる和歌でもあると同時に、地道に表現力を磨くことの重要さも教えてくれる和歌だと私は思います。
西行について
源頼朝や後白河院と同時代の人物で、もとは武士で鳥羽院の北面の武士(近衛兵的なもの)も勤めましたが、若くして出家します。その後、諸国を遍歴していたようです。松尾芭蕉のような旅する詩人でもあり、諸国を遊行する僧侶でもありという人です。
桜の和歌がとくに有名で
「願はくは花の下にて春死なん そのきさらぎの望月のころ」
という歌のそのままに、入定したことでも有名。
源平の兵火で焼かれた東大寺の再建プロジェクトを行っていた重源に頼まれて、奥州まで寄付集めにいった話も残っています。