英仏百年戦争の時代に「戦争大嫌い」なファンタジー世界的な魔女がいたらどうなる という歴史シュミレーション的な世界です。中世ヨーロッパ世界の描かれ方はかなりリアルなので、歴史が好きな人や宗教に興味がある人は相当に楽しめると思います。魔女狩りなどの実際の中世ヨーロッパの狂気の部分もいい感じに描かれています。所々大人向けの下ネタギャグも入ってます。(ストレートなお色気シーンはありませんので子供と一緒に見て大丈夫です)
この作品、アニメのラテン語が面白かったのでメモしておきます。
まず、アニメ3話でローマ教会の坊さんがよく言ってたのはこれ。
Ego Te Absolvo 「汝の罪を許す」 エゴ テ アブソルボ
Deus Caritas Est「神は愛なり」 デウス カリタス エスト
Ego 私 Te 貴方 Absolvo 許す Deus 神 Caritas 愛 Est ~である(英語のisと同じ)
です。ラテン語は基本的にローマ字読みで問題ありません。
タイトルのラテン語もけっこういい雰囲気ですね。 基本的に全てラテン語の慣用句になっているようです。
第1話『VIRGO INTACTA 完全なる乙女』
第2話『CONTRA MUNDUM 世界に対す』
第3話『FIDE,NON ARMIS 武器ではなく信仰で』
第4話『MEMENTO MORI 死を思え』
第5話『SAPERE AUDE 勇気を、分別を、』
第6話『SUB ROSA 薔薇の下で』
第7話『BELLUM SE IPSUMAM ALET 戦争は戦争を食う』
第8話『LUPUS EST HOMO HOMINI 人は、人にとって狼』
第9話『CUM GRANO SALIS 一つまみの塩を』
第10話『ODI ET AMO 我憎み、我愛す』
第11話『 SI VIS AMARI , AMA 愛したければ、まず愛しなさい 』
第12話『OMNIA VINCIT AMOR 愛は全てに勝つ』
1.VIRGO INTACTA
完全なる処女。主人公の属性「処女」がそのままラテン語になってます。 処女マリアってキリスト教の文脈でいうと聖母マリアですが、ここでは魔女マリア。(笑)
2.CONTRA MUNDUM
たとえ全世界を敵に回そうとも的なニュアンスあり。 「敵百万いようとも、我一人ゆかん」的なある意味で、吉田松陰的なノリです。
3.FIDE,NON ARMIS
武器ではなく信仰で by faith not arms
「まず宗教を布教してその後で軍隊を送る」というのはスペインが大航海時代に よくやりました。現代のアメリカは「アメリカ型 の人権意識を布教する」に熱心ですが、 意外と軍隊より宗教のほうがパワフルな領域はあるのです。
4.MEMENTO MORI
メメント・モリ 死を思え
中世キリスト教的な文脈だと「人間いつか死ぬ→だから来世を思え」的な発想になりますが、武士道的文脈で同じ発想をすると「人間いつか死ぬ→だから現世を精一杯生きよう」となります。古代ローマ的には 「人間いつか死ぬ→だから現世を楽しもう」だったようです。
5. SAPERE AUDE
勇気をもって分別を持つ ホラーティウス 書簡詩
自分の頭で考えるということは勇気が必要です。えらい人の言うことそのまま信じるほうが楽といえば楽です
6.SUB ROSA
英訳するとunder the rose (薔薇の下で)。「秘密の内に」の意味の慣用句。
薔薇が、ギリシャ世界で沈黙の神ハルポクラテスに捧げられたことから、 秘密会議の会議室の天上に薔薇をつけて秘密を洩らさない誓いとする風習が あったのだそうです。
※ハルポクラテス →もともとエジプト神話のホルス(太陽の神)で、沈黙の神ではなかったのですが、 指をくわえているポーズが「シー」のポーズに見えたことから、ギリシャ世界に 受容された時に沈黙の神になったようです。
7.BELLUM SE IPSUMAM ALET
The war will feed itself
戦争は戦争を食らう。リウィウスのローマ建国史(Ab Urbe Condita Libri) で、大カトーの言葉として有名。10万の軍隊を動かすというのは 都市がひとつ移動するのと似たようなものですので、口さがない言い方をすればイナゴの大群みたいなものです。
※大カトー→ポエニ戦争の時代に「カルタゴ滅ぼすべし」と 演説の終りに必ず言ってた人。
8. LUPUS EST HOMO HOMINI
人は人にとって狼。ローマの喜劇作家プラウトゥスの『ろば物語』より 「しょせん人間の敵は人間だよ。」とエヴァンゲリオンの碇司令も 言っていましたが、そういうことです。ゴジラや怪獣より人間のほうが怖いのです。
9. CUM GRANO SALIS
ひとつまみの塩を with a grain of salt
やや疑念をもって受け入れるという意味で使われます。 大プリニウス『博物誌』より
10. ODI ET AMO
憎む&愛する。ローマの恋愛詩人カトゥッルスの言葉。 恋愛は相手に強烈な関心を持つということなので、まさに ODI(憎む) ET(&) AMO(愛する) でしょう。
11. SI VIS AMARI , AMA
愛したければ、まず愛しなさい。セネカの名言。だったと思います。 孔子的に言うなら「己の欲せざる所は、人に施す勿れ」がやや近い気がしました。「自分がやってほしいことがあるなら、まず自分からやれや」というのを逆から言ってますので。
12. OMNIA VINCIT AMOR
訳は「 か-な-らーず-、最後にあいは勝つー-」ですというのは冗談で、正確な訳は「愛は全てに勝つ」です。元の文章は続きがあって、「愛は全てを征服する。そして、われわれもまた愛に降伏しよう (Omnia vincit Amor et nos cedamus Amori)」 となっています。ヴェルギリウス「牧歌」の文章です。11話の最後の主人公の行動は敵対者の前に行って「彼氏出来たー!」と宣言する所で終わりますので、いい感じのタイトルだと思います。
キリスト教世界をネタにしたマンガとしては、聖☆おにいさん も名作ですが、こちらもローマ・カトリック教会の世界観が随所に出てくるのでチェックしておくと面白いと思います。異端審問官的な発想をのぞいてみたい人は「ニューエイジについてのキリスト教的考察【書評】」あたりもどうぞ。中世ヨーロッパのファンタジーというと時代考証が無視なものも多いですが、このアニメはかなりしっかり作られていて歴史の勉強としても面白かったです。
※原作漫画はこちらです。
※ラテン語情報は、大半が下記のラテン語の先生のサイトが参考引用元です。それ以外は英語版のWIKIPEDIAとWIKISORUCEが元です。
http://www.kitashirakawa.jp/taro/
※欧米人にとってのラテン語は、日本人にとっての漢文(孔子とか老子とか)みたいなものだと思います。そのせいか、名言集などを見ると意外と孔子や老子の世界とも発想が近いなあと思うことがあります。