聖徳太子の十七条憲法「和をもって尊しとなし」は誰しもどこかでなんとなく聞いたことがある条文だと思います。なお、この時代の憲法というのは今でいう法律というよりは道徳律に近いもの、役人のための服務規程といった性質が強いものになります。
ところで、聖徳太子の憲法は八条になると意外としょうもない条文がのっています。
「八にいう。群卿や百寮は早く出仕し、遅く退出するようにせよ。公務はゆるがせにできない。一日中かかってもやりつくすのは難しい。それ故遅く出仕したのでは、急のように間に合わない。早く退出したのでは、必ず業務が残ってしまう。」(講談社学術文庫訳)
現代語訳ながら難しいのでさらにまとめると
「第八条 役人は早く出勤してきて、遅く帰ること。そうしないと仕事を終わらせられないから。」
よく解釈すれば、「常に余裕を持って業務にあたるべし。そのために仕事時間は長めに確保しておくこと」という意味です。ただ、裏から見ると「早く来て遅く帰れ。そうでないと仕事を終わらせることはできない」という悪い意味で精神論な条文にもとれますし、「長時間労働というか長時間会社にいるのがいいこと」という多くの日本企業のかかえる悪習の大本はこれかと疑うこともできる条文です。ブラック企業は聖徳太子に始まると分析してもいいくらいです。
昔の場合は電子メールも携帯電話もありませんでしたから、「何はともあれ、同じ場所に同じ時間に人がいてくれないと困る事」は現代よりはるかに多かったと思います。ただ、IT革命で時代は変わったのですから、多くの仕事の場合、「ただ単に長い時間職場にいること」自体にはもう意味はないでしょう。もちろん業種によりけりですが、ノートパソコン・携帯電話・インターネット環境の3つがあればわりとどこにいても働ける環境は整ってきていますし、これからも整っていくことでしょう。
追記
当時の役人は日の出前に出勤し、お昼すぎに勤務終了というスタイルでした。電気のない時代ですから、日の出と共に活動開始、というのがスタンダードだったのでしょう。大和朝廷など今でいう政府をさして朝廷という言葉を使いますが、朝から集まるから「朝廷」といったのです。