前の記事で、九字の真言の一字一字にカミとホトケが配当されているという話をしました。今回は、wikipedia掲載の九字護身法の解説資料の対応表を使って、九字の一字一字にどんなカミとホトケが配当されているかを見ていきます。
対応表
臨 仏格:毘沙門天 神格:天照皇大神
兵 仏格:十一面観音 神格:八幡神
闘 仏格:如意輪観音 神格:春日大明神
者 仏格:不動明王 神格:加茂大明神
皆 仏格:愛染明王 神格:稲荷大明神
陣 仏格:聖観音 神格:住吉大明神
裂 仏格:阿弥陀如来 神格:丹生大明神
在 仏格:弥勒菩薩 神格:日天子
前 仏格:文殊菩薩 神格:摩利支天
この対応表をもとに、昔の人が九字をきる時にどんな世界観をもっていたのか、カミとホトケのイメージがどんな感じで統合されていたのかを探求してみます。イメージ分析なのでわりと強引にいきますよ。
1.臨 仏格:毘沙門天 神格:天照皇大神
毘沙門天は上杉謙信も信仰していた戦神的なイメージの強い神です。
アマテラスは神道の高天原の神のリーダー神で太陽神です。
毘沙門=アマテラス、ということでアマテラスに「戦う神様的なイメージ」をもたせていた人達がいることが分かります。実際、スサノオを迎え撃とうと武装したこともありますし。
毘沙門天はガクトも演じた上杉謙信が信仰していたことで有名ですが、謙信の清らかな美しいイメージと、アマテラスを祭る伊勢神宮の清らかな美しさはちょっと近いかもしれません。
2.兵 仏格:十一面観音 神格:八幡神
八幡神は、言わずと知れた源氏の氏神、武家の神として知られます。
十一面観音はその深い慈悲から衆生の一切の苦しみを抜き去る存在とされます。
兵で八幡神で武神なのは、そのままなので特に解説不要かと思います。十一面観音のほうは
「一切の怨敵から害を受けない」など、やはり戦いの守護者的な利益かあるとされています。
この神と仏は、「威厳」みたいなものが共通します。
3.闘 仏格:如意輪観音 神格:春日大明神
春日の大明神は、具体的にはタケミカヅチ・フツヌシ・アメノコヤスネ・ヒメガミ、です。このうち、タケミカヅチは雷神で武神、フツヌシは刀剣の神で武神、アメノコヤネは祝詞の神、ヒメガミは単純に女神様やお姫様の意味、になります。やはり戦いの神なので「闘」の字に
結び付けられます。
如意輪観音の如意輪は「如意+法輪(チャクラ)」の略です。法輪はもともと古代インドの武器チャクラムに由来し、煩悩を破壊する仏法の象徴です。というところから、 「闘」の字に
結びついたのではないかと。
この神と仏は、「闘気」みたいなものが共通します。
4.者 仏格:不動明王 神格:加茂大明神
加茂大明神は、賀茂神社(かもじんじゃ)の神様です。具体的には、
雷神たる賀茂別雷大神 (かもわけいかづちのおおかみ)、丹塗りの矢に化身する
伝説をもつ賀茂建角身命(かもたけつぬみのみこと)、いずれも「戦う男子」な神様です。
不動明王は一切の煩悩を焼きつくし断ち切る存在です。
大日如来(宇宙そのもの的な汎神論的な仏)の化身で、
ヒンドゥー教の最高神シバ神に期限があるという説があります。
煩悩を焼きつくす仏の決意という解釈もあるようです。
この神と仏は、赤い色のイメージがつながります。
5.皆 仏格:愛染明王 神格:稲荷大明神
稲荷大明神、お稲荷さんは基本は「食物神」です。ウカノミタマノカミ・ウケモチノカミ・オオゲツヒメなどの食べ物の神様のことをさします。食物神は「死と再生」によって恵みをもたらす要素をもっています。また、稲荷=ダキニ天とされることもあり、ダキニは性愛の欲を悟りへと転換する的な要素をもっています。
愛染は「愛欲(煩悩)を離れ、大欲に変化せしむ」の意味とか。
「貪り・怒り・愚かさの三毒の煩悩を打ち砕いて、心を浄化し、浄信(菩提心)を起こさしめる。」などの功徳があります。
この神と仏は、一般的にいうマイナスをプラスに転換する的な意味で、同じ要素のある神格です。
6.陣 仏格:聖観音 神格:住吉大明神
住吉大明神は、住吉三神のことで、航海安全の神様、水の神様です。ちなみに大阪にある住吉神社の社殿は舟みたいになってます。
聖観音は、観音様の基本形で、「静かに見守ってくれる観音様」です。水瓶などをもっている姿で描かれることもあります。
この神と仏は、水の静かさのイメージがつながります。
7.裂 仏格:阿弥陀如来 神格:丹生大明神
丹生大明神は、水の女神であり丹(=水銀)を司る神です。また、高野山を開いた
空海上人を高野山に導いた神としても知られます。
阿弥陀慮来は、西方の極楽浄土を司る存在で、極楽に案内してくれる存在です。
この神と仏は、「異世界へ」的みたいなイメージがつながります。
8.在 仏格:弥勒菩薩 神格:日天子
日天子は、太陽の神格化したインドの神です。ほかに月天子もいます。
弥勒菩薩は、梵字でいうとマイトレーヤ、56億7千万年後の未来に
この世界に現われ悟りを開き、多くの人々を救済するとされます。
この神と仏は、「(空の)彼方」的みたいなイメージがつながります。
9.前 仏格:文殊菩薩 神格:摩利支天
摩利支天は、日の光が屈折する、陽炎の神格化された神で、常に日天の前を隠形で進行する神、信仰すれば戦場で傷つかないという、戦いの守護神として信仰されました。
文殊菩薩は、維摩居士と堂々たる問答をする話などもあり、智恵を司ることで知られる仏です。智恵は悟りの段階に進むための重要な要素となります。
この神と仏は、「進む」イメージがつながります。
まとめ
こうしてみると、神と仏の世界、色んな神様の世界がいかに密教的に融合していたかがわかります。日本語だと 「住む」、語だと「live」くらいのイメージで、九字の一字一字にカミとホトケの対応表が配当されています。
この手のもので、どの神とどの仏を対応させるかは公式的なものはあまりなく、その人その人の感性でやっていたようです。今回はwikipedia掲載の密教の資料だとどういうイメージかなというのを追って、強引に解読してみました。神仏の対応自体は、人によって色んな対応が作れると思います。
なお、精神集中術として九字を使う場合は、手刀を作ったら=即集中、みたいなモードを先に練習で作っておくことが重要になります。(現代風にいうなら、このポーズしたら、良い感じに集中できる、みたいなアンカリングをちゃんとやっておくということです。)
参考文献
九字ならぬ十字とかも載っています。古神道や民間呪術に興味ありな人にはお勧めです。やや複雑でしたが、忍者というよりお坊さんが使いそうな九字も掲載されていました。