頑張らないことの大切さは、戦国時代の剣豪のエピソートからもうかがうことができます。「ガンバレ!ニッポン」と 「ガンバレ!」を連呼するのは、スポーツやライブを応援する時だけでよいのです。
塚原卜伝は戦国時代後期の剣豪で宮本武蔵に戦いを挑まれた時に、鍋のフタで刀を受け止めたという歴史物語のシーンでも有名です。生涯で多くの勝負をしましたが、戦わずして勝つことを大切にしていたようです。
卜伝には、「馬の後ろ足に蹴られそうになったので、目にもとまらぬ早業でさっとよけた弟子に「あいつはまだまだ修業が足りぬ」と低評価を与えた話があります。そもそも馬は急に蹴る生き物なので、近くを通ってはいけないという話です。
危険なところに行って技を使ってよけるよりも、危険なところにわざわざ行かないのがよいという冷静な発想です。「頑張る=カッコ悪い」という発想は、実はこういう冷静な視点がベースにあると自然に生まれてきます。
さて、塚原卜伝の教訓と言われている話をもうひとつ紹介します。
達人の卜伝のもとに、筋の良さそうな若者が入門に訪れます。
若者「一生懸命修業すれば何年で免許皆伝になれますか?」
卜伝「5年で免許皆伝になれる」
若者「寝食を忘れて修業すれば、何年でしょうか?」
卜伝「10年はかかるだろう」
若者「では、死ぬ気でやったらどうですか?」
卜伝「一生無理だろう」<参考 ひろさちや「仏教がわかる心が楽になる: お釈迦さまがほんとうに伝えたかったこと」など>
この場合の、「一生懸命」は適度に力が入った状態でしょう。「寝食を忘れて」は、徹夜してご飯を抜いて頑張るという意味ですが、これでは力の入れすぎです。「死ぬ気で」は体力の消耗を全く考えずにと翻訳できますので、気合いの入れすぎなわけです。
これは、実際に徹夜で勉強や仕事などをしたことがある人なら分かると思います。
徹夜というのは、やった日の仕事量・勉強量は増えますが、体力的なダメージが大きいです。結局、徹夜明けの翌日は普段よりもひどいコンディションで一日を過ごすことになります。もし継続的に徹夜をしてしまうと、日々倒れそうな状態で仕事をすることになります。
一睡もしないレベルまでいかなくても、限界を超えた超短眠でも同じです。
修業やビジネスや勉強は、昔の大きな土木工事のようなものです。1日2日だけ死ぬ気で頑張るよりも、365日ふつうに取り組むほうが結果として早い速度でゴールに到達していくのです。