三銃士(アレクサンドル・デュマ・ペール作 1844年発表)で言えば有名なセリフがこれです。
“un pour tous, tous pour un”
“One for All, All for one.”
翻訳はいらない気もしますが、”ひとりはみんなのために、みんなはひとりのために”というアレです。これとテイストの近い、日本史の名文句といえば
大一大吉大万
豊臣家の武将石田三成(1560-1600)が、旗印にした言葉があります。
「万民が一人のため、一人が万民のために尽くせば太平の世が訪れる」という意味とされます。(大一大吉大万の解釈は他の説もある)
真面目な律義者だった三成らしい言葉の選び方です。江戸時代の三成のイメージは人間的に小人物だったというものがおおいですが、これは豊臣家を滅ぼした徳川家が天下をとったから広まった悪評です。史実の三成は「いい奴だった」ということが知られています。
なお、天下分け目の関ヶ原で三成と相対した徳川家康(1543-1616)の旗印は
「厭離穢土 欣求浄土(おんりえど ごんぐじょうど)」
こちらは「穢れたこの世を離れ、極楽を求めよう」という意味なので、「死後は極楽にいける!さあ大義のために見事死んで見せよ!」というスローガンとしても機能したと思います。ちなみに同時代の一向一揆も似たようなモットーをかかげていますが、こちらは「進者極楽浄土 退者無間地獄 (戦場では前へ進めば極楽にいける。逃げた奴は地獄に落ちる)」とより直接的な表現になっています。
兵士個人の「死んだら極楽にいけるよ!」という個人の利益を前に出したモットーを使う家康と、 「自分がみんなに何ができるかを考えよう。そうすれば助け合いで素晴らしい世界ができるよ。」という世界の美しさを前に出したモットーを使う三成。家康のほうは性悪説的な発想で、三成のほうは性善説的な発想がベースにあったと言えます。
こんなところからも、いい悪いではなく、現実派で韓非子的な発想の家康と、理想派で孔子的な発想の三成の性格の違いを読み取ることができます。